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東京高等裁判所 昭和42年(ラ)70号 決定 1967年7月04日

抗告人

柴崎勝男

代理人

桐生浪男

主文

原決定を取り消す。

抗告人からサンウエーブ工業株式会社管財人児玉俊二郎に対する東京地方裁判所昭和四二年(ワ)第四六五号損害賠償請求権査定の異議事件について、抗告人に訴訟の救助を付与する。

理由

本件抗告の要旨は「抗告人はその有する主要な資産のすべてにつき会社更生法または民事訴訟法上の保全処分をうけ、他の価値のある資産も収入もないので、本件異議訴訟の訴訟費用を支弁する資力はない。抗告人に対しその資産を凍結して活用できないようにした上で損害賠償額の査定をなし、この査定に対する異議の訴において救助を認めないというのは、当事者間の公平に反するのみならず、実質的に裁判をうける権利を奪うこととなるという意味において憲法第三二条にも違反する。なお、右査定の主な疎明資料となつたのは、公認会計士田辺幹男外二名作成の調査報告書および公認会計士原英三作成の監査報告書と解されるが、これらはいずれも公正妥当なものとはいえないし、更生会社の含み資産を正当に評価していないこと、抗告人に違法行為の故意または過失があつたとは考えられないこと等に照らしても、右査定は不当であつて、抗告人は勝訴の見込なきに非ざるものということができる。よつて原決定を取消し、訴訟上の救助付与の裁判を求める。」というのである。

本件救助申立の本案は、東京地方裁判所が昭和四一年一二月二三日付でした損害賠償請求権の査定に対し抗告人が提起した異議の訴であつて、その訴額は九億三六一八万四三二三円で、したがつて訴状に貼用すべき印紙額は四六八万二二五〇円となる(会社更生法第七五条第一項の「異議の訴を提起する」とは、査定における債務者が査定の当否につき訴訟手続により審判を求める意味で、当事者の地位は仮差押異議におけると同様であるとする見解もあり、これによるときは印紙はごく少額ですむと考えられるが、当裁判所はこの見解をとらない)。しかるに疎明によると、抗告人はその有する不動産や債権など主要な資産のすべてにつき会社更生法や民事訴訟法上の保全処分をうけ、もしくは相殺をされるなどして、他に格別の収入もなく、前記の訴状貼用印紙を含む高額の訴訟費用を支弁する資力はないものと一応認められる。

ところで、この訴訟における審理の対象は、更生会社の抗告人に対する商法第二六六条に基づく損害賠償請求権の存否であつて、訴訟の性質、形式をどのように解するかにかかわらず、同条所定の責任原因については管財人が立証責任を負うものである。もちろん査定の手続において管財人は右請求権の原因たる事実につき一応の証拠を提出してはいるが、それはあくまでも疎明にすぎず、抗告人の主張するような諸点に関する反証により責任の全部または一部が否定される可能性がないではない、このような意味において抗告人に勝訴の見込なきに非ざるものと解して妨げない。管財人が取締役の責任を追及するには、本来ならば管財人自らがそのための訴を提起しなければならないところであるが、それでは特に迅速を要する更生手続に適しないので、法が査定という簡易な方法を認めたものである以上、査定の裁判に不服ある者は容易に正規の訴訟手続でこれを争うことができるよう実質的に保障すべきであり、抗告人の主要資産を凍結しておきながら本件異議の訴に訴訟上の救助を認めないのでは、当事者間の公平に著しく反することになるといわざるを得ない。

よつて原決定を取消し、抗告人に訴訟上の救助を付与することとして、主文のとおり決定する。(近藤完爾 田嶋重徳 藤井正雄)

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